「従前の例による」と「効力を有する」について
【お問合せ】
「なお従前の例による」と「なおその効力を有する」について、どちらにするべきか、使い分けの基準があればご教示ください。
【弊社見解】
参議院法制局様の資料(https://houseikyoku.sangiin.go.jp/column/column051.htm#:~:text=)によりますと、「なお従前の例による」と、「なおその効力を有する」の違いについて、以下の記載があります。
まず第一に、改正又は廃止前の法令が適用される根拠が違います。「なお従前の例による」の場合、改正又は廃止前の法令自体は失効していて、「なお従前の例による」という規定が適用の根拠となっていますが、「なおその効力を有する」の場合、改正又は廃止前の法令が効力を有するとされているので、当該改正又は廃止前の法令自体が適用の根拠となります。
第二に、効力の及ぶ範囲が違います。「なお従前の例による」の場合、「例」という文字はもともと「ならわし、さだめ」という意味を有しており、従来の法律関係全体を対象としていると考えられるため、当該法律のほか、政令、省令といった下位の法令に関する経過規定は不要ですが、「なおその効力を有する」の場合、効力を有するのはあくまで当該法律だけなので、当該法律に基づく政省令があるときは、それらについては別に経過規定を設ける必要があります。
そして第三に、改正又は廃止前の法令を改正できるか否かが違います。「なお従前の例による」の場合、改正又は廃止前の法令は失効しているので、改正は不可能ですが、「なおその効力を有する」の場合、改正又は廃止前の法令は効力を有するわけですから、改正することができます。
以上によりますと、「なお従前の例による」と「なおその効力を有する」は、一概にどちらが正しいということではなく、適用の根拠、効力の及ぶ範囲、改正の可能性等により、ご判断いただくものと考えます。
いくつか補足申し上げますと、「なお従前の例による」の場合、改正又は廃止前の法令自体は失効していますので、当該法令自体をその後に改正することはできませんが、「なお従前の例による」という規定が適用の根拠となり、なお従前の例による旨を規定している規定について、その後、必要があれば改正することは可能です。
これに対し、「なおその効力を有する」の場合、一般的には、改正又は廃止前の法令は効力を有することとなりますので改正可能となります。「なおその効力を有する」とした規定の改正例を探すことは困難ですが、地方税法等の一部を改正する法律(令和2年法律第5号。以下「令和2年改正法」といいます。)中に、改正例がありました。令和2年改正法は、条建ての法律ですが、その第5条において、地方税法等の一部を改正する等の法律(平成28年法律第13号。以下「平成28年改正法」といいます。)附則第31条第2項の規定によりなおその効力を有するものとされた同法第9条の規定による廃止前の地方法人特別税等に関する暫定措置法(平成20年法律第25号。以下「暫定措置法」といいます。)の改正を行っています。平成28年改正法も条建ての法律であり、その第9条において、暫定措置法を廃止するとともにその附則第31条第2項において、当該改正前の事業年度に係る関係税目について廃止する暫定措置法の一部の規定をなおその効力を有するとしています。この措置により暫定措置法に規定は、その後も有効であり、令和2年改正法におきまして、その一部を改正しております。
将来、ある改正の附則第〇項の規定によりなおその効力を有するものとされた○○による改正前の第〇条の規定を改正するというような想定をされていないとしますと、「なおその効力を有する」を選択する必要性は少なく、関連する例規も含めて、改正前の例規の適用を想定されるのであれば、「なお従前の例による」を選択することが分かりやすいのではないかと考えます。