法制執務全般、じょうれいくんの操作、技術的な解説

6.法令解釈 記事一覧

ほうれいくん(法制執務室) > FAQ > 6.法令解釈 > 教育委員会が利用者に対し損害賠償を請求することの可否
2008/07/14(月)
カテゴリー : 6.法令解釈

教育委員会が利用者に対し損害賠償を請求することの可否

タグ :

【お問合せ】
 本町には、町立図書館があり、図書館法に基づき条例で設置しています。その図書館ですが、平成21年度より指定管理者を導入する方針が定まり、導入に向けて設置条例の改正を進めることとなりましたが、その改正条例案の内容について疑義が生じました。

改正条例案には、損害賠償に関する規定が、次のように謳われています。

(損害の弁償)
第7条 教育委員会は、利用者が図書館資料若しくは設備、器具等を甚だしく汚損し、又は破損し、若しくは紛失したときは、現品又は相当の代価をもって弁償させることができる。

上記改正条例案では、教育委員会が利用者に対し損害賠償請求ができる旨を謳っていますが、予算執行権の無い教育委員会に、損害賠償請求ができるのかどうかということです。
損害賠償の額を定めることは、地方自治法第96条第1項第13号の規定により議決事項になると思うので、条例中に、損害賠償について謳うときは、主語は、「教育委員会は」ではなく「町は」になると思いますが、いかがなものでしょうか。

【参考】地方自治法(昭和22年法律第67号)第96号第1項第13号
第96条 普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。
(13)法律上その義務に属する損害賠償の額を定めること。

*********************************************
【弊社見解】
結論としては、地方自治法第96条第1項第13号に基づく議決は要しないと考えます。 理由としましては、同法同条同号の「その義務に属する損害賠償」が、行政実例において

市が経営する電車、自動車の事故により人畜、建造物等に与えた損害について、損害賠償の額を決定しようとする場合、争訟による決定のほか、示談による解決をも含む
(昭和26.8.15)

判決によつてA県及びB市は連帯して損害賠償金○円を支払う義務が確定した場合、A県において負担すべき損害賠償請求の額については、さらに本号の議決を要しない
(昭和48.4.12)

等とされている事などから、自治体が損害賠償に係る支払義務を負った場合に関する規定であると判断できることが挙げられます。

ご質問の件の場合、図書館利用者による資料の紛失・汚損等に係る損害賠償についての規定であるため、上記の自治法の規定には該当しないと思われます。

なお、主語については、図書館の管理を指定管理者に委託している自治体様の同様の規定についての事例を集めましたのでご参照下さい。


■資料の損傷等を行った者が主語である場合
※この場合、指定管理者による損傷・亡失等にも対応できる利点があると思われます。
※特別の事情等を斟酌する旨の規定については主語にバラつきが有ります。

○安来市立図書館条例—–島根県安来市様
http://www.city.yasugi.shimane.jp/reiki/reiki_honbun/r0720834001.html

(損害賠償)
第12条 故意又は過失により、図書館資料を著しく汚損し、破損し、又は亡失した者は、指定管理者が相当と認める現品又は代価を持って弁償しなければならない。
2 故意又は過失により、図書館の施設等を損壊し、又は滅失した者は、それによって生じた損害を賠償しなければならない。

○綾瀬市立図書館条例—–神奈川県綾瀬市様
http://www1.g-reiki.net/ayase/reiki_honbun/k700RG00000526.html

 (損害賠償)
第14条 図書館の施設、設備及び図書館資料を故意又は過失により損傷し、又は滅失させた者は、指定管理者の指示に従いこれを原状に回復し、又はその損害を賠償しなければならない。ただし、教育委員会が特別の事情があると認めるときは、この限りでない。

○土佐清水市立市民図書館の設置及び管理に関する条例—–高知県土佐清水市様
http://www.city.tosashimizu.kochi.jp/reiki/act/content/content110000279.htm

 (損害の賠償等の義務)
第12条 故意又は過失により施設,設備,備品等を損傷し,又は滅失した者は,その損害を賠償しなければならない。ただし,市長が特別の事情があると認めるときは,この限りでない。
2 図書館資料を損傷し,又は滅失した者は,速やかに館長に届けてなければならない。
3 前項の規定による届出をした者は,館長の指示に従い現品又は相当の代替をもって弁償しなければならない。ただし,損傷又は滅失の原因が不可抗力によるものと館長が認めた場合は,この限りでない。

*********************************************
【参考】
■蔵書等の紛失について、指定管理者と自治体が予め取決めている例

鹿児島県鹿屋市様—「鹿屋市立図書館施設指定管理者募集要項」
http://www.e-kanoya.net/htmbox/gyoukaku/2007/y_tosyokan.pdf