遡及適用の注意点について
【お問合せ】
例規(規則)の一部改正の遡及適用を検討しています。
どのようなことに注意すればよいのでしょうか。
【弊社見解】
1 例規(規則)の遡及適用について
例えば、A条例の第◎条では「対象者に対して、毎月15日に2万円を支給する」ということが定められており、この支給額を毎月3万円に引き上げることを内容とするA条例の一部改正条例が令和8年の3月20日に施行されたとします。
以上の事例においてA条例の一部改正条例は令和8年3月20日に施行されていますが、既に支給済みとなっている令和8年の1月分から3月分までの支給についても3万円が支給されたことにしたいと考えた場合には、そのようなことを実現することは可能でしょうか?
A条例の一部改正条例は既に令和8年3月20日に施行されており、この施行日を変更することはできません。しかし、改正されたA条例第◎条の規定の効果を令和8年の1月分から3月分までの支給という過去の事象に適用することは可能と考えられます。適用した結果も支給額が増加することになるだけであり、(予算さえあるのであれば)現実に実施することは可能です。このように例規(規則)の規定がその施行日前に生じた事項・事由に対して適用されることを「例規(規則)の遡及適用」といいます。先の事例の場合には、たとえば「改正後の第◎条の規定は、令和8年1月分以降の支給について適用し、令和7年12月分以前の支給については、なお従前の例による。」などというような規定を設けることとなります。
2 例規(規則)の遡及適用に当たっての注意点
遡及適用の例は、税制をはじめとしていろいろな分野の法令や例規(規則)においてみられるものですが、注意を要する点がいくつかあります。
まず、刑罰不遡及の原則があります。
実行したときに適法であった行為を、その後に作られたり、改正されたりした法令や例規(規則)によって罰することはできません。憲法第39条前段でも「何人も、実行の時に適法であった行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。」と規定されています。
次に、刑罰でないとしても、対象者に対して不利益を及ぼすような内容を遡及適用することは、通常行うべきではないといわれています。
先のA条例の改正の例ですが、改正の内容が支給額を2万円から1万円に引き下げるものであったとしましょう。改正後のA条例の規定を1月から3月までの支給に適用することとすれば、既に支給を受けた者に合計3万円の返済を求めることになってしまいます。しかし、これはそのような者の既存の利益を大きく侵害することになります。また、実際に実行することも困難ではないかと考えられます。したがって、よほどの理由が無い限り、このような「不利益の遡及」はできないと考えられています。
さらに、例規(規則)を遡及適用する場合には、既に起こった事実関係や成立している権利義務の関係に様々な影響を与える可能性があります。これにどのように対応するのかということを検討することが必要となることがあります。
もちろん、例規(規則)を遡及適用しない場合でも、新しい例規(規則)が制定され、適用された場合には、既存の権利義務関係や既に成立している社会秩序などに様々な影響を与えることがあり、それに対応するための適切な措置を設けることが必要となることがあります。いわゆる「経過措置」の要否の問題です。例規(規則)の遡及適用の場合にも当然ながら同様の検討が必要となりますが、例規(規則)の遡及適用の場合には、より慎重な検討が必要となることが多いと考えられます。その理由ですが、例規(規則)を遡及適用しようとする場合には、例規(規則)の改正前に成立している権利義務関係を過去に遡って変更することとなる可能性があるだけでなく、過去に現実に生じた事実関係などを無視をすることもできません(先程のA条例の事例では、1月から3月までの間に、既に毎月2万円が支給されているという事実を無視することはできません。)。したがって、例規(規則)を遡及適用する場合には、どのような問題が生じる可能性があるのかということを、通常の経過措置の検討の場合以上に、いろいろな角度から綿密に検討することが必要となります。
A条例の改正の事例についていえば、3月20日に施行された改正後の規定を1月分から3月分までの支給にも遡及して適用しようとする場合には、受給者が既に支給を受けている1月分から3月分までの支給の取扱いが問題となります。単純に改正後の規定を適用すると、既に支給を受けた分が二重取りとなってしまう可能性があります。このような不都合を避けるためには、例えば「改正後の第◎条の規定を適用する場合には、改正前の同条の規定に基づいて行われた支給は、改正後の同条の規定による支給の内払とみなす。」などというような規定を経過措置として設けることが必要となると考えられます。
